2008年01月03日

「青桐の下で」

2008/1/3 16:30
「「青桐の下で」」  読書
「青桐の下で~ヒロシマのかたりべ、沼田鈴子物語~)(広岩近広著 発行所明石書店、点字戸書は沖縄点字図書館)
この本は21歳の時廣島で被爆し、片足を失った沼田鈴子さんが、28年間家庭科教師として働き、定年後かたりべとして修学旅行生たちに被爆体験を語り、
平和活動をされている様子や沼田さんの生き方考え方を伝えている本です。
私は以前沼田さんのお話を直接聞いた事があり、その後本も読みました。
原爆の体験と婚約者を亡くされた事も印象に残っていますが、戦後沼田さんが自活の道を教職に求め、1947年に開校した廣島YDMカレッジの師範科に入学し、そこでの教師とのエピソードが特に心に残っています。
沼田さんは原爆が落ちるまでは積極的ではっきりとものを言っていたけれど、片足になってからは周りの者に逆らったら仲間はずれにされる、と怯えながら学生生活を送っていたのだそうです。
同級生から「沼田さんは足が悪いから映画には行かないでしょう。だから学級当番を代わって。」と言われたら代わる。学校をさぼっている同級生からノートを貸してほしいと頼まれたらすぐにそうする。
そんな沼田さんが変わるきっかけになったのが被爆教師との話し合いでした。
全身を原爆で火傷した男性教師が戦争の傷跡を背負った人たちの安らぎになればと校庭に色鮮やかな菊の花を植えていました。
「沼田さん、あの菊の花をとりに行こう。」
ある日同級生から誘われた沼田さんは、校庭に出て皆と一緒に菊の花を切っていました。そこへ菊の花を作っている教師が近づいてきたため、友人たちは自分が持っていた花を次々に沼田さんにわたして逃げていったのです。
菊の束をかかえて呆然としている沼田さんに先生は「社会に役にたつ人になるためには、人のいいなりになっているだけではいけない」という事を諭します。
その部分を一部引用します。

 
「沼田さん、私たちが心配しているのは、実はあなたが人のいいなりになる事です。ノートを貸してほしいと言われたらすぐそうする。当番を代わってほしいと頼まれたら、すぐかわる。
あなたは年上だし、学習に励み、教員を目指していますね。先生たちも期待しています。しかし、人の言いなりになるようではだめです。
社会に出て役にたつ人間はやさしいばかりではいけません。しっかりとした心を持ち、自分に負けない強い心を持たなければいけません。
その事を思うと、私は沼田さん、あなたがこの菊の花を持っていることすら腹が立つのです。なぜ、言いなりになるのですか」
鈴子は頭をガンと殴られたようだった。いじけていた心に氷水を注ぎ込まれたようだった。教師は鈴この目を覗き込みながら諭した。
 「沼田さん、勇気と努力です。この二つを持った強い心にならなければ、あなたは社会に役立つ人間にはなれませんよ」
(「青桐の下で」広岩近広著 明石書店、第4章沈黙の日々」勇気と努力」より抜粋)
 

この本の後の方で沼田さんはこう話されています。
「障害者もきちんとイエスかノーを言わなければならないと思います。健常者の親切は黙って受けなければならないと考えて、親切を受け入れたがために、かえって苦しむ事もあるのです。だから遠慮をするのはよくないと思います。
乗り物の座席にしても、立ち上がりやすい席に座らせてもらうため、『私はここに座らせてください』と最初にお願いします。
松葉杖を使用するようになってから、エレベーターに乗る時は、ちょっと荷物を持ってくださいませんか、と私は声をかけます。
障害者としては、健常者から『何かお困りはありませんか』と最初に声をかけてくれると嬉しいです。
障害者も甘えるのではなく、助けを必要とする時はきちんと口に出してお願いすることが大切だと思います。
私ははっきりと意思表示をするようになってから、苦しむことがずいぶんと減りました。」
(「青桐の下で」広岩近広著、明石書店、第4章沈黙の日々「28年間の家庭科教師」より引用)

沼田さんは被爆者、障害者という差別や偏見、病気や不自由さと戦ってこられ、平和活動を続けておられます。
私は20台前半、まだ社会に出る前にこの本と出会いました。そして今までは被爆者はかわいそう、戦争はいけないという思いだけで原爆に関する本を読んでいたけれど、
この本との出会いを通して、障害や自分が遭遇した困難を通してどのように生きるべきなのか、被爆者の方々はどのように生き、乗り越えてこられたのか、考えるようになりました。
人の言いなりにならないこと、イエス、ノーをはっきり言うこと、誰かに何かを頼みたい時は声をかけてもらうのを待っているのではなくて、こちらから口に出してお願いすること。そのためには勇気と努力が必要な事…。
自分を変えたいと思っても、すぐには変われません。日々の努力と積み重ねなのだと思います。
意思表示をはっきりするためには、勇気もいるでしょう。
大切なのはまずできる事から始めること。外出先で人に何かを頼む時、家族や周囲の人との関わりの中で実践していくこと。
そうしていく中で道が開け、周囲の人にも気配りができるようになり、本当に人の痛みがわかり行動することができるようになるのだとこの本を通して教えられました。
原爆の恐ろしさ、平和の大切さだけではなくて、もっと様々なことを知りました。

  


Posted by スイトピー at 16:30本の紹介旧ブログ記事